亡くなった方の預貯金を下ろすには? 知っておきたい「預貯金の仮払い制度」

亡くなった方の預貯金を下ろすには? 知っておきたい「預貯金の仮払い制度」

こんにちは 司法書士の島です。
身近な人が亡くなった後、葬儀の費用やこれまで受けた医療の支払いなどが発生することが多々あります。そのお金を、亡くなった方の預貯金から支払いたいと考えている方も多くいらっしゃると思いますが、実際は、簡単には引き出せません。今回は、亡くなった方の預貯金をおろすための方法について、実際の相談事例をもとにご紹介します。

ご相談ケース 亡くなった母の預貯金を引き出したい

ご相談者様:亡くなられた方(被相続人)のご長男

被相続人 お母様(77歳)
相続人  息子さん(ご相談者 51歳) 弟さん(46歳)
遺 産  預貯金900万円
遺 言  なし

ご相談内容

母が亡くなった後、母の葬儀費用と介護施設や入院費の支払いを母の預金から行いたいと思い銀行に行きました。ところが、口座を解約するには相続人全員の押印と印鑑証明書が必要だと言われました。

実は、弟と連絡がつかない状態が続いています。最後に聞いた携帯電話番号も現在は使われていませんでした。母の死を知らせた手紙を送っても、何の応答もありません。宛先不明で戻ってこないので、届いているようなのですが...住所の場所にも行ってみましたが、留守だったのかその日は会うことができませんでした。

銀行には母が亡くなったことを伝えたため、口座は凍結されています。
遺言もありません。

亡くなった方の預貯金は相続人でも下ろせない

相続が開始すると、被相続人(亡くなった方)の預貯金は、いったん相続人全員の共有財産となります。したがって、相続人の1人が勝手に引き出すと後々トラブルになることがあります。

また、銀行等に預金している人が亡くなったことを伝えると、その人の名義の預貯金口座は凍結され、適切な相続手続きを行わないと解約や払い戻しができません。

そのため、原則として相続人全員で話し合い(遺産分割)をして、預貯金を相続した相続人が金融機関で払戻しの手続きを行う必要があります。

相談の事例では、相続人はご相談者と弟様のおふたりですので、このおふたりで話し合いをして、預貯金をどのように相続するのか遺産分割協議をすることになります。
ですが、弟様と連絡がつかない状況が続いているとのことですので、遺産分割協議をすることが難しい状況です。
相談者様のご希望としては葬儀費用等の支払いをしたいとのことでしたので、預貯金を下ろすための方法として、「預金の仮払い制度」をご案内しました。

預貯金の仮払い制度を使うと、預貯金一部を払い戻しできる

預貯金の仮払い制度とは、平成30年7月の民法等の改正により設けられた制度です。
預貯金の口座名義人が亡くなられた場合に、遺産分割が終了する前であっても、各相続人が当面の生活費や葬儀費用の支払いなどのためにお金が必要になった場合に、相続預金の払戻しが受けられる制度です。
ただし、払い戻せる額には限度額があります。

今回のケースでは、相続人が2名で、ご相談者様の法定相続分が2分の1です。
相続開始時の預金額が、S銀行に600万円 S信用金庫に300万円でしたので、
S銀行から   600万円×1/3×1/2=100万円
S信用金庫から 300万円×1/3×1/2=50万円
合計150万円

の払戻を受けることが可能です。

なお、手続きには本人確認書類のほか、被相続人と相続人の戸籍謄本、預金を引き出す人の印鑑証明書などが必要です。

また、相続預金の仮払い制度で預金を引き出した場合は、遺産の一部を先に受け取ったことになりますので、後日の遺産分割協議ではその分を加味しなければなりません。

預貯金の仮払い制度を利用しよう

今回はご相談者様が上記の仮払い制度を利用して払い戻しを受けました。
引き続き、弟様とコンタクトが取れるようにしていかなければなりませんが、まずは必要な支払いができたとのことで一安心です。

このように、遺言がなく、相続人全員で遺産の分け方についての話し合いが難しい状況の場合、預貯金の仮払い制度を活用すると、一部ではありますが預貯金の払い戻しを受けることができます。
預貯金の仮払い制度やそのあとの遺産分割協議についてご不明な点がありましたら、お気軽にご相談ください。

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