近年、自分に万一のことがあったときに、過剰な延命治療を望まず人間らしく最期のときを迎えたいという人が増えています。そのような希望は叶えてもらえるものでしょうか。もしも自分に万一のことがあったときに、どのようにして医師に希望を伝えればよいのでしょうか。この記事では、そのような場合に備える方法の一つである尊厳死宣言公正証書について解説します。
尊厳死とは
尊厳死とは、国立国語研究所によれば、「患者が自らの意思で、延命処置を行うだけの医療をあえて受けずに死を迎えること」を言います。
(国立国語研究所:「尊厳死」)
医療の進歩に伴い、平均寿命は飛躍的に伸びました。しかし、一方ではいわゆる植物状態になってしまい延命処置を受けることでただ寿命を伸ばすのではなく、最後まで人間らしく人生を全うしたいと願う人も増えています。
医学界等でも、かつては可能な限り最後まで治療を施すのが医師の使命であるという考え方により、最後まで患者に治療を施すことが行われてきました。しかし、単に延命を図る目的だけの治療が、果たして患者の利益にかなっているのか、むしろ患者の尊厳を害しているのではないかという問題意識から、患者本人の意思を尊重するという考えが重視されるようになってきています。
尊厳死宣言公正証書とは
「尊厳死宣言公正証書」とは、自らの考えで尊厳死を望む、すなわち延命措置を差し控え、または中止する旨等を宣言し、公証人がこれを聴取してその結果を公正証書にするものです※1。
たとえば、「自分の疾病が現在の医学では不治の状態であり、すでに死期が迫っていると担当医を含む2名以上の医師により診断された場合は、死期を延ばすためだけの延命措置は一切行わず、苦痛を緩和する処置を最優先で実施し、人間としての尊厳を保った安らかな最期を迎えたい」といった内容の意思表明をし、公正証書を作成します※2。
尊厳死をめぐる状況
尊厳死宣言がある場合に、自己決定権に基づく患者の指示が尊重されるべきものであることは当然でしょう。
しかし、医療現場では尊厳死宣言に必ず従わなければならない、とまではいまだ考えられていないこと、また、治療義務がない過剰な延命治療に当たるかどうかは、医学的判断によらざるを得ない面があることなどからすると、尊厳死宣言公正証書を作成した場合でも、必ず尊厳死が実現するとは限りません。
もっとも、尊厳死の普及を目的としている日本尊厳死協会の機関誌「リビング・ウィル」のアンケート結果によれば、同協会が登録・保管している「尊厳死の宣言書」を医師に示したことによる医師の尊厳死許容率は、近年は9割を超えているようです※1。
尊厳死宣言公正証書を作るには
尊厳死宣言公正証書を作成したい場合、ご自身で原案を用意して公証役場に相談に行くことも可能ですが、法的に問題がなく有効性が認められる文書を作成したい場合や、公正証書の作成に不慣れな方の場合は、弁護士・司法書士など法律の専門家のサポートを受けたほうがスムーズに作成できます。
専門家は原案作成のサポートだけでなく、公証役場への原案の提出や公証人との打ち合わせ、公正証書作成の日時の予約などについてもサポートしてくれます。
病気や障害などにより公証役場に行くことが難しい方は、別途、出張費用等はかかりますが、公証人に出張してもらうことも可能です。
作成した尊厳死宣言公正証書はどうするか
尊厳死宣言をしたことは、ご自身が万一のときに担当する医師に伝わらなければ意味がありません。そのため、尊厳死宣言公正証書の正本や謄本は、すでに主治医がいる場合には主治医に提示する、将来に備えて作成したような場合には家族や任意後見人・任意後見候補者に託しておくなど、万一の際に確実に担当医に希望が伝わるようにしておくことが重要です。
尊厳死宣言公正証書を作成したい方は
尊厳死宣言については、終活の一環として、任意後見・死後事務・遺言などとあわせて、弁護士や司法書士などの専門家に相談することができます。相談することで、ご自身の不安を解消し希望を叶えてもらうことができるでしょう。
私どもでも、尊厳死宣言公正証書を作成したい方のご相談をお受けしています。またその際にあわせて、任意後見・死後事務・遺言書の作成などの生前の対策を総合的にご提案させていただくこともできます。ぜひお問い合わせください。