「相続人の中に財産を遺したくない人がいる」「特定の相続人に財産の大部分を遺したい」という場合、遺言を書いておけば解決される。そう考えている方も多いと思います。
でも「遺留分」のことを考えていますか?
「え!? 遺留分ってなに?」「遺言書で財産の行き先はすべて決められるんじゃないの?」
そう思った方に向けて、この記事では、遺留分に関する基礎知識と生前にできる遺留分対策について解説します。
目次
遺留分とは
遺留分とは、法律で定められた法定相続人に最低限保障される遺産の取得分です。
遺留分があるのは配偶者、子供、親が法定相続人となる場合で、兄弟姉妹が法定相続人になる場合に遺留分はありません。
遺留分は相続人の権利であり、一方的に奪うことはできません。遺留分を考慮しないで遺言書を書いた場合、実際に相続が発生した際にトラブルが生じる可能性が高いといえます。
遺留分の割合
遺留分も法定相続分と同様に、遺産の総額に対する割合が法律によって以下のように決まっています。
相続人の組合せ | 配偶者の遺留分割合 | 子の遺留分割合 | 親の遺留分割合 |
---|---|---|---|
配偶者のみ | 2分の1 | ||
配偶者と子 | 4分の1 | 4分の1 | |
配偶者と親 | 3分の1 | 6分の1 | |
子のみ | 2分の1 | ||
親のみ | 3分の1 |
同じ順位(立場)の法定相続人が複数いた場合には頭割りで計算されます。たとえば、配偶者と子供が2人の場合、配偶者が4分の1、子供が1人につき8分の1になります。
遺留分を侵害した遺言はどうなるの?
遺言の内容が遺留分を侵害していたとしても、遺言の内容そのものが無効になるわけではありません。
あくまでも、遺留分を侵害された相続人が遺産を多く受け取った相続人に対して遺留分侵害額請求をした場合に、遺産を多く受け取った相続人が遺留分相当額の金銭を支払わなければなりません。
しかし、そのことによって遺言を書いた人の望みどおりの財産配分にならない可能性が高くなります。
遺留分侵害額請求とは
すでに述べたように、遺留分を侵害された相続人は、侵害した相続人(遺産を多く受け取った人)へ遺留分の取り戻しを請求できます。この請求を「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求を受けた相続人は、侵害した遺留分に該当する額を金銭で支払わなくてはなりません。そのため、相続した財産の大部分が不動産や株式などの場合、相続した人が自分の財産から金銭を用意するか、相続した不動産や株式を売却するなどして金銭を用意しなければなりません。
では、遺留分侵害があった場合、必ず遺留分侵害額を支払わなくてはならないのでしょうか。
遺留分侵害額請求をするかしないかは、遺留分を侵害された人(遺留分権利者)自身が決めます。ですから、遺留分を侵害していたとしても遺留分侵害額請求がなされず、遺言のとおりに財産を受け取れる場合もないわけではありません。遺言で財産を多くもらった人は遺留分侵害額請求がされるかされないかわからないうちは、不安定な状態に置かれることになります。そこで、遺留分侵害額請求はいつまでにしなければならない(この期間内に請求しないと権利が消滅する)という消滅時効が定められています。消滅時効期間は以下のとおりです。
・相続開始と遺留分侵害を知ってから1年
被相続人が死亡した事実と遺留分を侵害する遺言があったことを遺留分権利者が知ったときから、1年以内に遺留分侵害額請求をしなければ、遺留分侵害額請求の権利が消滅します。
・相続開始から10年
相続開始や遺留分を侵害する遺言書の存在を遺留分権利者が知らなくても、相続開始から10年が経過すると遺留分侵害額請求権が消滅します。
生前にできる遺留分対策
遺留分については、遺言書を作成するときに遺留分権利者と遺留分割合を確認したうえで、できるだけ遺留分を侵害しないような内容の遺言を作成することが基本となります。
ただし、遺留分を少なくしたり、遺留分をめぐるトラブルがないようにするために以下のような対策が考えられます。
遺留分の生前放棄
遺留分権利者は、被相続人となる人の生前に家庭裁判所に許可を申し立てることにより、あらかじめ遺留分を放棄することができます。
ただし、申立てが認められるには以下のような要件が必要です。
・遺留分を放棄すべき合理的な理由がある
・遺留分権利者に相当な対価が与えられている
この手続きは、遺留分権利者が自ら行う必要がありますので、他の人が一方的に放棄させることはできません。ですから、遺言をする人が上述のような事情のある遺留分権利者に話をして、その人が自ら遺留分放棄の申立てをしてくれるようであれば、この制度を利用することは遺留分対策になるでしょう。
生前贈与
遺留分は上述のとおり、遺産総額に対する割合により計算されるので、そもそもの遺産総額を減らせば遺留分も減ることになります。そこで、遺産を多く渡したい人に生前贈与することで、相続財産を減らしてしまうのも一つの方法です。
ただし、相続人への生前贈与の場合、死亡前10年間に行った贈与は遺留分侵害額請求の対象になります。そのため、生前贈与を行うのであればできるだけ早めに行う必要があります。
生命保険を活用する
被相続人の死亡によって、相続人のうちの一人が高額な死亡保険金(生命保険金)を受け取った場合には、他の相続人は、この部分については基本的に遺留分侵害額請求権を行使することができません。
なぜならば原則として、生命保険金は遺産分割の対象となる相続財産には含まれないからです。生命保険金は、保険会社から保険金受取人に対して支払われるものですので、被相続人の財産ではなく、保険金受取人の固有の財産として扱われます。ですから、生命保険金は遺産分割の対象となる相続財産に含まれず、遺留分割の対象にもなりません。
そのため、特定の相続人に多くの財産を渡したいという場合には、当該相続人を保険金受取人として指定した生命保険の契約をすることで、遺留分を心配することなく希望を実現することができます。
ただし、最高裁判所の裁判例で、生命保険金を受け取った相続人とそれ以外の相続人との間で著しい不公平が生じる場合には、特別受益に準じて持ち戻しの対象になると判断された事例があります。つまり、生命保険金も相続財産として遺産分割の対象になり、遺留分侵害額請求の算定の基礎となる財産に含まれるということになります。
ですから、あまりにもあからさまに遺留分権利者の権利を奪う目的であると判断されるような保険契約はするべきではないでしょう。
遺言書の「附言事項」にメッセージを記す
自らの死後に遺留分侵害額請求をしそうな遺留分権利者がいる場合、遺言書の「附言事項」にメッセージを書くことも方法のひとつです。
たとえば、特定の相続人に多くの財産を渡すことになる場合にはその理由を書き、他の相続人にはそのことを理解して争いのないようにしてほしいといった内容を書くことです。
ただし、附言事項はあくまで気持ちや理由を表すものであり、法的な拘束力はありません。残された相続人たちがそれを守るかどうかはわかりません。しかし、遺言者の気持ちが伝われば、あえて遺留分侵害額請求をしようとは思わなくなる可能性もあるのではないでしょうか。
附言事項については、「失敗しない遺言を書こう! 相続人が困らない遺言を書くための5つの注意点」の記事もご覧ください。
専門家を遺言執行者に指定する
直接の遺留分対策となるものではありませんが、遺言をつくる際に、弁護士や司法書士といった専門家を「遺言執行者」に指定することをおすすめします。
遺言執行者とは、遺言内容を実現するために手続きをする人です。たとえば、遺言によって長男に不動産を残したら、遺言執行者が長男への名義書換などの手続きを進めます。遺言執行者には、財産をもうらう人を含めた相続人を指定することもできますが、相続人が遺言執行者に指定されると相続人間の対立がより激しくなってしまうおそれがあります。中立な立場の専門家が執行者になることで、遺留分権者も含めたすべての相続人が納得しやすくなります。
遺言執行者については、「遺言を見つけたら… 遺言による相続手続きを解説。遺言の探し方も教えます」の記事もご覧ください。
まとめ
以上のように、遺言を作成する際には、遺留分権利者がいるか、いる場合には遺留分権利者の遺留分割合がどのくらいで、それが相続財産に照らしていくらくらいになるかを確認したうえで、できるだけ遺留分を侵害しないよう、またどうしても侵害することになりそうならば何かできる対策はないかなどを考えることが重要です。
しかし、こういった対策を講じるには、戸籍や不動産の資料などを取得して確認することが欠かせません。
また、何が適切な対策かを判断することは専門家でなければなかなか難しいと思います。
遺言の作成をお考えの方は、私たち相続の専門家にぜひご相談ください。