認知症に備える ~任意後見契約と併せて準備したい「見守り契約」と「任意財産管理契約」について~

認知症に備える ~任意後見契約と併せて準備したい「見守り契約」と「任意財産管理契約」について~

65歳以上の5.4人に1人が認知症患者※1とされる現代社会において、将来の認知症に備えることは重要です。
認知症対策のひとつに、信頼できる親族や専門家と任意後見契約を結んでおくことがありますが、その際には併せて任意後見契約が発効されるまでの間の見守り契約や任意財産管理契約を結んでおくと安心です。
この記事では、任意後見契約と併せて対策したい見守り契約や任意財産管理契約について解説します。
※1 「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」の推計

任意後見契約とは

任意後見制度とは、委任者が自分の判断能力が十分なうちに、あらかじめ後見人となってくれる人(「任意後見受任者」といいます。)と任意後見契約を締結し、そこで選任しておいた任意後見人に、将来、自分が認知症や精神障害等で判断能力が不十分になったときに支援を受けるという制度です。

後見人とは、ご自身に代わって財産の管理や重要な契約などをしてくれる法律上定められた代理人のことです。
財産の管理や医療契約、施設への入所契約等の身上に関する各種契約事項等を自分に代わってやってくれる人をあらかじめ選んでおくと安心です。法定後見制度では見知らぬ人が成年後見人等に選任されることも多いので、自分で後見人を選べると安心感が違います。

このように自分の判断能力が低下したときに、自分に代わって財産管理等の仕事をしてくれる人(任意後見人)をあらかじめ定め、その人との間で、財産管理等の代理権を与えて仕事(法律行為)をしてもらうことを委任する契約が任意後見契約です※2

※2 日本公証人連合会ホームページ

任意後見契約はいつ発効するか

任意後見契約は、委任者本人の判断能力が不十分となった場合に備えて、あらかじめ締結されるものです。ですので、任意後見人の仕事は、委任者の判断能力が不十分となってから始まることになります。

具体的には、任意後見受任者や親族等が家庭裁判所に対し、委任者本人の判断能力が低下して任意後見事務を開始する必要が生じたので「任意後見監督人」を選任してほしいという申立てをします。
そして、家庭裁判所が任意後見人を監督すべき「任意後見監督人」を選任しますと、その時から任意後見契約の効力が発生し、任意後見受任者は「任意後見人」として、契約に定められた仕事を開始することになります※2

見守り契約・任意財産管理契約とは

見守り契約とは、任意後見が始まるまでの間に、支援する人が定期的に本人と電話連絡を取り、併せて本人の自宅を訪問して面談することによって、支援する人が、本人の健康状態や生活状況を確認し、任意後見をスタートさせる時期を判断するための契約です。

また、判断能力はあるけれども、車椅子生活・寝たきり状態・手が不自由で文字が書けないなどの場合、預貯金の払戻しや、印鑑証明書・戸籍謄本の取得などが困難になります。
このような場合、家族や信頼できる人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約が任意財産管理契約です※3

見守り契約・任意財産管理契約のメリット

前述のとおり、任意後見契約は締結後、ご本人の判断能力が低下した後に家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立て、任意後見監督人が選任されることにより発効します。
しかし、一人暮らしの方や近くに親族がいない方などは、ご本人の判断能力が低下したことを確認できる人がいませんので、家庭裁判所への申し立てがされない可能性もあります。
もちろん、ご自身で判断能力の低下を自覚し、家庭裁判所に申し立てを行うことも制度上は可能ですが、実際には、判断能力の低下したご本人自身が申立てをするケースはかなり稀だと言えます。
つまり、せっかく任意後見契約という準備をしたにもかかわらず、任意後見が発効されずにその準備が無駄になってしまう可能性もあるということです。
見守り契約をすることで、そういった状況になることを防ぐことができます。

また、ご本人の判断能力は低下していないが、前述のように身体が不自由になるなどによりご自身で財産管理等を行うことが困難になる事態も考えられます。任意財産管理契約をしておくことで、そのようなケースに対する備えになります。
一人暮らしの方はもちろん、それ以外の方も任意後見契約を検討される場合には、見守り契約と任意後見契約も併せて手続きしておくことで万全の備えをしておくことができます。

任意後見・見守り契約・任意財産管理契約に関する費用

任意後見契約・見守り契約・任意財産管理契約作成の費用

①任意後見契約
任意後見契約は必ず公正証書で作成することが必要です。任意後見契約に要する費用(実費)は以下のとおりです。

内容費用
公正証書作成手数料11,000円~(1契約につき。証書の枚数によって加算あり)
収入印紙代2,600円
登記嘱託手数料1,400円
書留郵便料84~320円(重さによって異なる)
正本謄本の作成手数料250円/枚
合計(最低金額)15,654円~

②見守り契約・任意財産管理契約
見守り契約・任意財産管理契約は、必ず公正証書で作成しなければならないわけではありません。
しかし、任意後見契約と併せて契約する場合、同じように公正証書で作成しておくことが望ましいです。その場合、それぞれ上記1①と同様の公正証書作成手数料がかかります。
また、任意後見契約書・見守り契約書・任意財産管理契約書の案文作成などを専門家に依頼する場合には別途、報酬が必要です。

見守り契約・任意財産管理契約の受任者の報酬

見守り契約・任意財産管理契約の受任者に報酬を支払うか否か、支払う場合にいくらとするかは、委任者本人と任意後見受任者との話合いで決めることになります。身内の方が任意後見人となる場合には、無報酬とする事例も多いようです。

任意後見人の報酬・任意後見監督人の報酬

任意後見人に報酬を支払うか否か、支払う場合にいくらとするかは、委任者本人と任意後見受任者との話合いで決めることになります。身内の方が任意後見人となる場合には、無報酬とする事例も多いようです。
任意後見監督人の報酬額は、家庭裁判所が事案に応じて決定します。委任者本人の財産の額、監督事務の内容その他の諸事情を総合して決定されているようです。報酬額の目安については、各家庭裁判所のホームページで公開されています。なお、この報酬額は委任者の財産から支払われます。²

まとめ

任意後見制度は、自分の希望に沿って誰に財産の管理をしてもらうかなどをあらかじめ決めておくことができます。
もし、任意後見契約をせず何も決めておかなければ、家庭裁判所が成年後見人を選任し、その成年後見人の判断で財産の管理などが行われます。

任意後見契約を活用すれば、将来の自分の人生設計を、他人の意思にまかせるのでなく、自分自身で決めておくことができます。そのような意味で任意後見契約は有意義かつ重要な制度です。
ただし、せっかく任意後見契約をして準備をしていても、実際に任意後見が発効するまでの間にはいろいろな事態が考えられます。任意後見契約とともに、見守り契約や任意財産管理契約を併せて準備していきましょう。
認知症対策をお考えの方はぜひ私どもにご相談ください。

この記事を書いた人

藤浪智央
司法書士

藤浪智央

2000年大学在学中に司法書士試験に合格。地元信用金庫勤務を経て2009年7月司法書士登録。
座右の銘は「努力に勝る天才なし」。少子高齢化、個人の権利意識の高まりなど、社会環境の変化により大きく変わっている相続関連の法律や制度に常に対応し、お客様に満足いただけるように心がけています。

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