相続が発生して、専門家に相談したところ「遺言はありませんか? 確認してください。」と言われた方。「そもそも遺言って何?」という方。また、「最近、新聞や雑誌で遺言書について目にするけど、書いておいたほうがいいのかな?」という方。この記事ではそんな方々の疑問にお答えします。
目次
遺言とは
一般的な用法で遺言といえば、自らの死後のために、生前に自分の考えや思いを記した書面をイメージされると思います。
このうち民法で規定する「遺言」は、亡くなった方が自らの相続関係、つまり財産の分け方などを定めるための最終意思を表した書面をいいます。法律上の効力を生じさせるためには、民法に定める方式に従わなければならないとされています。
遺言で定めることができること
民法などの法律により遺言で定めることができることには、以下のようなものがあります。
① 誰に何を遺すのかの指定(相続分や遺産分割方法の指定や遺贈など)
② 相続する権利の剥奪(相続人の排除):
特定の相続人から虐待や侮辱などの被害を受けていて、その人に財産を渡したくないという場合は、その相続人から相続する権利を剥奪することができます。
③ 遺言執行者の指定:
遺言執行者とは、遺言者の死後に、遺言の内容を実現する手続きを行う人のことです。遺言書の中で執行者を指定することができます。
④ 祭祀承継者の指定:
「祭祀承継者」とは、お墓や仏壇、系譜などの「祭祀財産」を受け継ぎ、祖先の祭祀を主宰する人です。つまり、お墓や仏壇などを誰が受け継ぐかを遺言で決めておくことができます。
⑤ 子の認知、未成年の子の後見人の指定などの身分行為:
子の認知とは、婚姻していない男女の間に生まれた子供(いわゆる非嫡出子)を、父が血縁上の子供であると認めることです。認知は当然、生前にも行うことができますが遺言によっても行うことができます。認知をすることで、認知された子供が法律上の相続人になります。
また、遺言者に未成年の子供がいて、ご自身が亡くなることによりその子供に親権者がいなくなる場合には、親権者に代わる後見人(未成年後見人)を遺言で指定できます。(指定がない場合には、一定の親族等の申立てにより家庭裁判所が決定します。)
⑥ その他(保険金の受取人の変更・信託の設定・一般財団法人の設立など)
遺言のメリット
遺言を書くことのメリット、また相続人にとって亡くなった方が遺言を遺してくれていることのメリットとして、主に4つ挙げられます。
ご自分の意思で財産の分け方を決めることができる
「自分の面倒を見てくれた子に多く遺してあげたい」など、自分の意思で死後の分け方も決めたい場合、遺言書を作成すれば、遺産の分け方を自分の意思で決められます。
決めておかない場合には、法定相続人全員で遺産の分け方を話し合いますが(遺産分割協議)、話し合いで解決しない場合には法律で定められた割合(法定相続分)を基準に家庭裁判所が決めます。その場合、子供の法定相続分は基本的に平等です。
相続人以外にも財産を遺すことができる
遺言書がなければ、遺産は法定相続人(法律上相続権を有する人)に引き継がれます。法定相続人になるのは配偶者、子や孫などの直系卑属、父母や祖父母などの直系尊属、兄弟姉妹です。
遺言書を作成すると、たとえば内縁の配偶者やお世話になった人、団体へ遺贈するなど、法定相続人以外の人へも遺産を遺すことができます。
相続人が遺産分割について話し合うことなく相続手続きができ、相続人どうしの争いを未然に防げる
遺言書がある場合、原則、遺産の相続は遺言どおりになされますが、遺言書がない場合には法定相続人全員で遺産分割協議が必要です。
協議の過程で、法定相続人の間で財産の分け方について争いが発生する可能性があります。
相続手続きに必要な書類が少なくてすむなど、相続手続きの負担を軽減できる
不動産の名義変更や預貯金の手続を行う際、遺言があるほうが、遺言がない場合より、手続きに必要になる戸籍や相続人の印鑑証明書などの書類が少なくなるケースが多く、相続人にとっては書類を取得する負担が軽減されます。
さらに、遺言執行者を指定すれば、執行者に手続きを一任できるため、各相続人が手続きをしなくて良くなり負担はさらに軽くなります。
遺言は、遺されたご家族に自分の意思を伝えることができるのはもちろん、手続きの面においても、遺されたご家族を思いやり、助けることにも大変役立つのです。
遺言の方式と要件
遺言の方式には大きく分けて、普通の方式と特別の方式の2つの方式があります。
特別の方式は危機に瀕している場合など緊急の状態において認められているもので、作成後6か月経過後にも存命の場合には無効となってしまう例外的なものですので、この記事では説明を省きます。
普通の方式の遺言には、①自筆証書遺言 ②公正証書遺言 ③秘密証書遺言の3つがあります。
遺言書の方式 | おすすめ度 | 作成者 | ポイント |
---|---|---|---|
自筆証書遺言 | 〇 | 自分・自署 | 自筆で書く 法務局に預ける場合は家庭裁判所での検認不要 |
公正証書遺言 | ◎ | 公証人 | 自筆証書遺言よりも信頼性が高い 紛失・破損のリスクがない |
秘密証書遺言 | × | 自分・自署 | 遺言書の中身を他人に知られることがない 公証人と証人、2人の関与が必要 家庭裁判所の検認手続きも必要 |
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言を作成する人が、財産目録を除く全文を自筆で書く遺言です。民法第968条第1項では、自筆証書遺言をする場合には、遺言者が遺言書の全文、日付及び氏名を自書(自ら書くことをいいます)して、これに印を押さなければならないと定めています。
自筆証書遺言については、令和2年7月10日から法務局で保管する制度(自筆証書遺言保管制度)が開始されました。
この制度は、遺言者が自筆証書遺言書を法務局(遺言書保管所)に預けておくことができるものです。遺言者は、自身の自筆証書遺言に係る遺言書の保管の申請を行い、遺言書を預けることができます。一度保管した遺言書は、保管の申請の撤回をしない限り返却されません1,2。この制度を利用することで、遺言書の保管方法や保管場所、それを誰に伝えておくかなどについて、あれこれと心配する必要がなくなります。また、後述のとおり遺言者が亡くなった際の家庭裁判所での検認手続きが不要になります。
自筆証書遺言で法務局保管制度を利用しないものについては、遺言者が亡くなった後に相続人が家庭裁判所で検認手続きを受けなければなりません。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で作成される遺言のことです。公証役場で公証人が筆記し、遺言者・公証人・証人2人の全員で内容を確認のうえ、署名押印する遺言です。
自筆証書遺言に比べて、信頼性が高く、遺言の無効を防ぐことができます。また、公正証書遺言は原本が公証役場に保管されるため、紛失や破損の心配がありません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の「内容」を秘密にしたまま、公証役場で遺言の「存在」を、公証人と証人に証明してもらう遺言のことです。遺言者以外にはその内容を秘密にしながら、遺言者本人が作成した遺言であると公証役場で証明してもらうという遺言の作成方式であり、公証役場での手続を終えた後は、遺言者本人が遺言を保管します。
遺言の中身が他人に知られることがないというメリットがありますが、公証人と証人2名以上の関与が必要となるうえ、自筆証書遺言と同様、相続開始後の家庭裁判所の検認手続きも必要になる(民法1004条)など、手間と費用がかかることから、あまり利用されているとは言えない方式です。
⇒自筆証書遺言と秘密証書遺言の検認手続きについて、詳しくは「遺言を見つけたら・・・遺言による相続手続きを解説。遺言の探し方も教えます」
まとめ
遺言の基本的な事項について、ご理解いただけましたでしょうか。
ご相続が発生して遺言がある方や、遺言があるかどうかを確認したい方は、次の記事もご覧ください。
⇒「遺言を見つけたら・・・遺言による相続手続きを解説。遺言の探し方も教えます」
また、これから遺言を書きたいと考えておられる方はぜひ、次の記事もご覧ください。
⇒「失敗しない遺言を書こう!いざというとき相続人が困らない遺言を書くための注意点を教えます」
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