遺言を見つけたら… 遺言による相続手続きを解説。遺言の探し方も教えます

遺言を見つけたら… 遺言による相続手続きを解説。遺言の探し方も教えます

親が亡くなり、遺品を整理していたら遺言が出てきた。このような場合、その後の手続きはどのようにしたらよいでしょうか? もしかしたら遺言を書いていたかもしれないけれど、どのように探したらよいのでしょうか? 
この記事では、遺言がある場合の相続手続きや遺言の有無の確認方法について解説していきます。

遺言とは

遺言とは、被相続人(亡くなった人)が生前に「自分の財産を、誰に、どれだけ遺すのか」などについての意思を書面に残したものです。
法律的な意味での遺言は、亡くなった方が自らの気持ちや遺された人へのメッセージを書いた「エンディングメッセージ」とは異なります。
ただし、「エンディングメッセージ」の中に財産に関することが書かれていて、それが法律上の要件を満たしていれば遺言書として扱われる場合もあります。

詳しくは「遺言とは?相続が発生した方も、これから作りたい方も必見の基礎知識」 をご一読ください。

これって遺言なの?(何が見つかった?)

遺言には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つの方式があります。
これ以外にも「特別方式遺言」という特殊な方式もありますが、作成できる場面が限られるため、説明は省略します。
3つの方式の保管場所とその特徴についてまとめました。

※遺言の3つの方式の詳しい説明や違いについては「遺言とは?相続が発生した方も、これから作りたい方も必見の基礎知識」をご一読ください。

自筆証書遺言(法務局保管制度を利用しないもの)・秘密証書遺言

亡くなった方のご自宅などから「遺言書」と書かれた封筒や文書を見つけた場合

書かれている内容や様式にもよりますが、自筆証書遺言や秘密証書遺言である可能性が高いです。
秘密証書遺言は封がされ、封筒には公証人により、提出された日付及び遺言の申述(遺言であること及び遺言者の氏名住所)が記載され、公証人、証人、遺言作成者本人による署名押印がされています。
自筆証書遺言に封をすることは必ずしも必要なことではありません。

ポイント:遺言書に封がされている場合にはすぐに遺言書を開封してはいけません!

封印のある遺言は、後で説明する遺言の検認手続きにおいて、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立会いのもとで開封しなければいけません。
家庭裁判所ではない場所で封印のある遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料(罰金)に処されてしまいますので、十分注意しましょう。
また、封がしてない遺言書であっても遺言書の検認手続きは必要です。

自筆証書遺言(法務局保管制度を利用)

亡くなった方のご自宅などから法務局発行の「保管証」が見つかった場合

自筆の遺言書を法務局に預けた場合には、法務局から「保管証」が発行されます。もしも亡くなった方のご自宅などから「保管証」が見つかったら、法務局で「遺言書情報証明書」を請求しましょう。
「遺言書情報証明書」は、遺言書のスキャン画像等が印刷されたもので、遺言書の原本と同じように相続手続きで使用できるものです。

公正証書遺言

亡くなった方のご自宅などに公証役場の名前が入った封筒を見つけた場合

公正証書遺言は、通常原本と正本、謄本が作成されます。原本は遺言者、公証人、証人が署名押印するもので、1通しか存在せず、公証役場で保管されます。
正本と謄本は、原本の写しであることを公証人が証明したもので、後述の遺言執行手続きに使用します。
亡くなった方のご自宅などに正本か謄本が保管されている場合があります。
これまでわたくしどもが関わってきたお客様の事例ですと、遺言を作成した公証役場の名前が入った封筒に入っているケースが多いです。

遺言の検認とは

遺言の保管者または遺言を発見した相続人は、遺言者の死亡を知った後、遅滞なく遺言を家庭裁判所に提出して、その「検認」を請求しなければなりません。
なお、民法には「遅滞なく」とは定められているものの、具体的な期限については述べていません。何らかの事情で検認が遅くなってしまったとしても、検認ができなくなってしまうことはありません。
ただし、検認手続きは申立てから1か月ほど時間がかかるのが一般的です。これは家庭裁判所が相続人全員に遺言の存在を知らせ、検認の日時も通達する必要があるからです。検認の申立てが遅れれば、その分だけ遺言の「執行」(遺言書を使った相続手続き)も遅れてしまうことになります。

先述の、「自筆証書遺言(法務局保管制度を利用しないもの)・秘密証書遺言」のみ、検認の必要があります。
公正証書による遺言のほか、法務局において保管されている自筆証書遺言に関して交付される「遺言書情報証明書」は、検認の必要はありません。

「検認」とは、相続人に対し遺言の存在や遺言の内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言の内容を明確にして、遺言の偽造・変造を防止するための手続きです。
遺言の内容が有効か無効かを判断する手続きではありません。

検認の手続きは、通常は以下のように行われます。

①検認期日の通知
検認の申立てがあると、家庭裁判所から相続人に対し、検認期日(検認を行う日)の通知が郵送されます。
申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは、各人の判断にまかされていて、相続人全員がそろわなくても検認手続きが行われます(申立人は、遺言書、申立人の印鑑、そのほか担当者から指示されたものを持参します)。

②検認期日
検認期日には、申立人から遺言を提出し、出席した相続人等の立会のもと、裁判官が封がされた遺言を開封のうえ,遺言を検認します(封印のある遺言は、家庭裁判所で相続人等の立会いのうえ開封しなければならないことになっています)。

③検認済証明書の申請
検認が終わった後は、遺言の執行をするためには、遺言に検認済証明書が付いていることが必要となるので、検認済証明書を申請します。

引用: 遺言書の検認 | 裁判所

遺言執行と遺言執行者について

遺言執行とは、遺言者の死後に遺言の内容を実現する手続きをいいます。遺言執行者とは、その手続きを行う人のことです。
遺言執行者には、相続人や受遺者(相続人以外で遺言で財産をもらう人)自身がなることもできますが、弁護士や司法書士、税理士といった専門家にもなってもらうこともできます。

遺言執行者の種類詳細メリットデメリット
相続人法で定められた相続人費用(専門家報酬)がかからない手続き漏れなどにより後でトラブルになるリスクがある
受遺者遺言で財産をもらうことが定められた人
専門家弁護士、司法書士、税理士など手続きをまかせられる費用(専門家報酬)がかかる

遺言執行者は遺言によって指定することができます。
遺言で指定がない場合などには、相続人や受遺者(遺言で財産をもらう人)が家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求することができます。

遺言執行手続きは、主に以下の流れで進みます。

① 相続人に対し就任通知書を送付する
② 遺言の内容を通知する(遺言書の写しを送付する)
③ 相続財産目録を作成して交付する
④ 財産の処分・名義の書換などの手続きを行い、遺言のとおりに財産を分ける
⑤ 完了の報告をする

遺言執行者には弁護士・司法書士・税理士などの専門家を指定したり選任してもらうことができます。
その場合の報酬額については、遺言に定めがある場合にはその額になります。遺言に定めがない場合には、相続人と協議して決めますが、協議が整わない場合などには家庭裁判所へ報酬の決定を申し立てることができます。

遺言の探し方

お亡くなりになられた方が遺言を作成していたかわからない場合の探し方を説明します。
ご相続が発生する前に亡くなった方が遺言を遺されていたかどうか、相続人の方がわからなくて、探してみたら見つかったというケースはこれまでの私の経験では1割から2割程度ですので、それほど多くはありません。
ただし、昨今の終活への関心の高まりを考えると、これからはそのようなケースがより多くなることが予想されます。
遺言の探し方は遺言書の方式によって異なります。

自筆証書遺言(法務局保管制度以外)・秘密証書遺言

法務局保管制度を利用しない自筆証書遺言は基本的に遺言者が自分で保管することになりますが、よくある保管方法は以下の通りです。

・自宅の金庫、仏壇の引き出しやその周辺
・銀行の貸金庫
・弁護士、税理士、行政書士などに預けている(遺言書作成について相談し、作成と同時に預けている場合や、普段付き合いのある人に預けているケースがあります)
・信頼できる親戚、友人に預けている

自筆証書遺言(法務局保管制度を利用)

前述の「保管証」がなく、法務局に遺言書が預けられているかどうかを確認したい場合には、「遺言書保管事実証明書」を請求します。
この方法では、遺言書が法務局に預けられているかどうかだけを知ることができ、遺言書の内容を知ることはできません。
保管されている遺言書の内容を確認するには、「遺言書情報証明書」を請求したり、法務局に直接行って遺言書の閲覧をしたりすることになります。

なお、相続人等が「遺言書情報証明書」を交付されたときや、遺言書の閲覧をしたときは、法務局からその他の相続人等に対して、遺言書が法務局に保管されていることが通知されます。また、法務局の職員が遺言者の死亡を確認したときや、「遺言書保管事実証明書」を交付したときには、遺言者が指定した方に遺言書が保管されていることが通知されます。

公正証書遺言

正本や謄本が見つからない場合でも原本は、法律では公証役場に20年間保管されることになっています。(実務上は必要に応じて、それよりも長く保管されているケースが多いです。)

公正証書遺言は1989年以降、コンピュータで検索できるシステムになっているため、相続人が近くの公証役場で全国の公証役場に保管されている公正証書遺言を検索することができます。
その場合には遺言者が亡くなったことがわかる戸籍謄本と、相続人であることを証明する書類(戸籍謄本等)、請求する人の本人確認資料(身分証明書)が必要です。

もしも相続手続きをした後に遺言が見つかったら

遺言に有効期限はありません。ですから、遺言がないものとして相続手続きをした後で遺言が見つかった場合、すでに手続きが終わってしまっているからといって遺言が無効になるものではありません。その場合、すでに完了した遺産分割を無効とし、あらためて遺言に従って再分割を行わなくてはならないのが原則です。

ただし、相続人全員の同意が得られれば、遺言の内容に沿っていなくても、すでに完了した遺産分割を有効とすることができます。

ですが、相続人のうち、たとえ一人でも同意しない者がいる場合には、遺言の内容を踏まえ、あらためて遺産分割協議からやり直さなくてはならない場合があります。

まとめ

遺言はお亡くなりになられた方の最後の意思を示す大事なものです。また、後から遺言が見つかると厄介な問題にもなり得ますので、この記事を参考にしていただき、相続が発生したら、まずは遺言の有無をしっかりと確認していただければと思います。
私どもでも自筆証書遺言の検認手続きや、遺言執行者選任の手続きを承っております。お気軽にご相談ください。

この記事を書いた人

藤浪智央
司法書士

藤浪智央

2000年大学在学中に司法書士試験に合格。地元信用金庫勤務を経て2009年7月司法書士登録。
座右の銘は「努力に勝る天才なし」。少子高齢化、個人の権利意識の高まりなど、社会環境の変化により大きく変わっている相続関連の法律や制度に常に対応し、お客様に満足いただけるように心がけています。

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