「親が書き残してくれた遺言書が相続の手続きのときに使えなかった。」
「遺言書の内容がもとで、相続人の間で争いが起こってしまった。」
そんなケースが実際にあるんです。では、そのようなことにならない遺言を書くには、どのようなことに注意したらよいのでしょうか。これから遺言を書く方に向けてこの記事で解説します。
目次
遺言を書くことのメリット
遺言とは、亡くなられた方が財産の分け方など自らの相続関係を定めるための最終意思を表した書面をいいます。法律上の効力を生じさせるためには、民法に定める方式に従わなければならないとされています。
遺言があることによって、ご自分の意思で財産の分け方を決めることができ、相続人どうしの争いを未然に防ぐことができるなどのメリットがあります。
法的な効力を持つための遺言書については「遺言とは?相続が発生した方も、これから作りたい方も必見の基礎知識」で解説しています。
遺言とエンディングメッセージの違い
遺言 | 財産を誰に遺すかを書いたもの 相続手続きに必要 |
エンディングメッセージ | 自分の気持ちを言葉や文章で記したもの 相続手続きには不要 |
一般的な用法で遺言書といえば、亡くなった方が自らの死後のために自分の気持ちを記した言葉や文章を書いた書面(エンディングメッセージ)をイメージされると思います。
ただし、この記事で解説する法律的な意味での遺言書は主に「財産を誰に遺すかについて」を書いたものであり、ご自分が亡くなった後に、相続人や遺言執行者が法務局での不動産登記や銀行での預金解約などの相続手続きに使用することになる書面です。
エンディングメッセージと財産の分け方などを一緒に書くと内容が不明瞭になり、相続手続きに支障がでる可能性があります。
エンディングメッセージは後に説明するように遺言書の最後に「附言事項」として書くか、別に「エンディングノート」を作成するとよいでしょう。
おすすめの遺言の方式は2つ
普通方式の遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3つがあります。
このうち「秘密証書遺言」は、文字どおりご自分が亡くなるまで内容を完全に秘密にすることができますが、それだけに不備のあるケースも多く、手続き的にも作成時に公証役場に行かなければならないことや、ご自分の死後に相続人が家庭裁判所で検認手続きを受けなければならないことなど手間を要することから、あまり利用されているとは言えません。
そこでおすすめなのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2つの方式です。
「自筆証書遺言」には、作成した遺言書を法務局に預ける法務局保管制度もあります。
各方式のメリット・デメリットは以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
公正証書遺言 | 不備がない遺言書がつくれる 紛失、滅失、偽造、変造のリスクがない(原本は公証役場で保管) | 費用がかかる 証人2人の立会が必要 |
自筆証書遺言(法務局保管制度) | 紛失、滅失、偽造、変造のリスクがない 家庭裁判所での検認が不要 | 手間がかかる(法務局へ行く必要がある) 不備の可能性は完全にはなくならない(法務局は形式的要件の確認のみ) |
自筆証書遺言(法務局保管制度を利用しない場合) | 費用がかからない | 紛失、滅失、偽造、変造のリスク 相続人に見つけてもらえない可能性 不備、無効のリスク 家庭裁判所での検認が必要 |
自筆証書遺言の場合、形式的要件を漏らさない
自筆証書遺言は、以下の形式を満たしていない場合、法律的には「無効」な遺言書となってしまいますので、注意が必要です。
1.全文を自分で書く(ただし、財産目録を添付する場合、財産目録部分は印字でもよい)
本文を印字したものや、他の人が代筆したものは無効です。
2.作成した日付を書く
3.氏名を書く
4.印鑑を押す
法律的には実印でなくても認められますが、押印のないものは無効です。
5.訂正箇所には印を押し、欄外にどこを訂正したかを書いて署名する
遺言の内容に注意する
せっかく書いた遺言書でも内容に不明確な点や不備がある場合、それが原因で相続手続きに支障が出たり、相続人間でかえって争いの原因になったりします。そのようなことがないように主に以下の点に注意しましょう。
当ホームページから、自筆証書遺言を書く場合の最も基本的な文例をダウンロードできますので、参考になさってください。
①「誰に」「何を」「どのような割合で」等を明確にし、できる限り正しい法律用語を使う
②不動産(土地・建物)については、登記簿の記載どおりに記載する
③現金・預貯金は具体的金額よりも割合で記載するほうがよい
④自分の財産全部について記載する
⑤家族への想いや財産の分配に偏りがある場合などは「附言事項」に書く
「誰に」「何を」「どのような割合で」等を明確にし、できる限り正しい法律用語を使う
たとえば、「お金はこどもたちにあげます」「孫にのこします」といった書き方では、具体的に誰に、何を遺すのかが不明確です。
「●●銀行●●支店の預金は長男の〇〇に相続させます」「孫の〇〇に遺贈します」と書くのが正しいです。
なお、一般的に法定相続人(法律上、相続する権利のある人)に遺す場合には「相続させる」、それ以外の人に遺す場合には「遺贈する」と書きます。
また、「長男と二男の2人にあげます」といった書き方では、具体的にどのような割合なのかが不明です。「長男に3分の2、二男に3分の1の割合で相続させます」などと書くようにしましょう。
不動産(土地・建物)については、登記簿の記載どおりに記載する
たとえば「〇〇市●●町の土地は、長男にわたします」という書き方では、具体的にどの土地なのかが不明確です。たとえ長男がわかっていたとしても、法務局で登記名義を変更するときに手続きできない可能性があります。
登記簿を見ながら、以下のように書くとよいです。
「次の土地は、長男の●●に相続させます。
所 在 〇〇市●●町
地 番 1番1
地 目 宅地
地 積 123.23平方メートル 」
現金・預貯金は具体的金額よりも割合で記載するほうがよい
遺言を作成したあとにも当然、財産の変動はあります。遺言はご自身が健在のうちは何度でも書き換えることができますが、預貯金など日々変動する可能性がある財産についてその都度作り直していたらきりがありません。
たとえば、「長男に1500万円、二男に1000万円をあたえます」といった書き方をした場合、もしもそれ以上に財産があったらどのように分けるのか、逆に亡くなった時点で不足していたらどうするかが不明です。
「●●銀行●●支店の預金は長男に10分の6、二男に10分の4の割合で相続させます」などと書くのがよいでしょう。
自分の財産全部について記載する
ご自分の財産のうちの一部について書いた遺言書も当然、その財産に関することについては有効ですが、そのほかの財産をどうするかで相続人間で争いになったりする可能性があります。せっかく遺言書を作るのであれば、まずはご自分の財産を整理して、すべての財産について書いておくのがおすすめです。
なお、最後に「上記以外のすべての財産を●●に相続させる」と書くことは有効です。
家族への想いや財産の分配に偏りがある場合などは「付言事項」に書く
遺言書において法的効力を与えることを直接の目的としない記載事項を付言事項といいます(家族へのメッセージや希望など)。
たとえば、介護に従事してくれた長男に他の兄弟よりも多めの遺産を渡したいなど、遺言書の内容によっては相続人間で偏りが出てくることもあるかと思います。その場合、長男以外の相続人には不満が生じやすくなります。しかし、そのような内容の遺言を作成した経緯を付言事項に書くことで、相続人の納得が得られ、争いを防ぐことが期待できます。
なお、公正証書遺言を作成する場合でも附言事項を入れてもらうことができます。
失敗しない遺言を書くために、ルールを遵守しよう
以上のように、遺言書を書くときには注意しなければならない点が多くあります。
- 民法が定める方式に則る
- 形式的要件を漏らさない
- 書き方の5つの注意点に気をつける
遺言書は多くの人にとって、人生で1回経験するかしないかのこと。そのためにいろいろ調べながらおひとりで遺言書を作成するのは、かなりの労力を要してしまうでしょう。
たとえ自筆で書く場合でも、あらかじめ専門家に相談したうえで書くのがおすすめです。また、より確実には、専門家に相談したうえで公正証書遺言を作成するのがよいでしょう。
遺言書を書いてみたい、親に遺言書を書いてもらいたいと思ったら、まずは私たち専門家に相談ください。