同居していなかった親の自宅を相続した方や相続対象財産に自宅以外の不動産がある場合、どのような手続きが必要になるのでしょうか。また、そのような不動産を相続したくない場合や処分したい場合はどうすればよいのでしょうか。この記事で解説します。
目次
相続対象不動産の調べ方
亡くなった方が不動産を所有していたかどうかがわからないというケースも少なくありません。亡くなった方が住んでいた自宅についてはわかりやすいですが、それ以外にも不動産を所有している可能性もあります。亡くなった方がどのような不動産を所有していたかわからない場合には、どのように調べたらよいでしょうか。
固定資産税納税通知書で確認する
亡くなった方が不動産を所有していた場合、原則として行政機関(市区町村)から固定資産税という税金が課税されています。そのため、毎年4月頃に市区町村から「固定資産税の納税通知書」が送付されてきます。
固定資産納税通知書には、亡くなった方が所有している不動産の明細が記載されており、所在地番まで確認できます。
注意点は、固定資産税は不動産がある各市区町村ごとに課税されるということです。ですから、一つの市区町村からの固定資産税納税通知書に、亡くなった方が所有するすべての不動産が記載されているとは限りません。
また、共有の不動産(複数の方が所有者となっている不動産)については、共有者である別の方あてに納税通知書が送られている場合もあります。
さらに、固定資産税が課税されない不動産(固定資産税の金額を算出するための評価額が低額な場合や私道の場合など)を所有している場合には、納税通知書が届かなかったり、不動産の明細に載っていなかったりすることもあります。
亡くなった方の家の中を探して納税通知書が見つからなくても、固定資産税が亡くなった方の銀行口座から自動引き落としになっている場合もあります。通帳の記載を確認して、固定資産税と思われる引き落としがある場合には、次の方法でも調べてみましょう。
固定資産名寄帳を取得する
名寄帳とは、固定資産税を課税するために市区町村が作成している固定資産税課税台帳を所有者ごとにまとめたものです。「なよせちょう」と読みます。
名寄帳には同一市区町村内の不動産がまとめられているので、特定の人が持っている不動産を一覧で確認することができます。
名寄帳には、亡くなった方が共有持分権者として所有している土地や建物と、私道、農地、山林など固定資産税が課税されていないため納税通知書には載っていない不動産も記載されている場合があります。
名寄帳は、市区町村の役所の資産税課という部署にて取得することが可能です。
ただし、名寄帳の取り寄せが可能なのは、亡くなった方と相続関係にある方のみです。相続人である証明は、戸籍謄本の写しなどで行います。
権利書を探す
不動産を取得して不動産の登記簿に名前が載ると、登記名義人に対して法務局から「登記済証」が交付されます。この登記済証のことを俗に「権利書」と呼びます。(比較的最近になってから不動産を取得した場合には「登記識別情報通知書」が交付されますが、これもいわゆる「権利書」です。)
これらの書類には不動産の所在地などの情報が記載されていますので、亡くなった方が所有している不動産を確認する手がかりになります。
権利書は大切な書類ですので、ご自宅の金庫や銀行の貸金庫に保管している場合が少なくありません。一度確認してみましょう。
不動産登記簿謄本
上記の1~3を調べてみて、亡くなった方が所有している不動産の手がかりがつかめましたら、法務局で不動産登記簿謄本(登記事項証明書)を取得して確認しましょう。登記簿謄本は全国の法務局でどなたでも取得できますが、土地の地番や建物の家屋番号が明確でないと取得できません。
所有不動産の手がかりがわかったら、登記の専門家である司法書士に相談して登記簿謄本を取得してもらい、以下の手続きについて相談してみることをおすすめします。
相続対象不動産に必要な手続き
相続登記の義務化
亡くなった方が所有していた不動産が判明したら、法務局でその不動産の登記名義人の変更手続きをしなければなりません。(正式には「相続による所有権移転登記」といいます。)
これまでは、相続があったときに相続人が相続による所有権移転登記を行うことは義務ではありませんでした。そのために「所有者不明土地」が増えていることが、近年、大きな問題になっています。「所有者不明土地」とは、「不動産登記簿等の所有者の記載から、本当の所有者がただちに判明しない、または判明しても所有者に連絡がつかない土地」のことをいいます。その結果、不動産の売買や空き地を有効に活用したいといったときに所有者と交渉ができず、計画が進まないという問題が発生しています。
このような問題を解決、また未然に防ぐために、令和6年4月1日から相続登記の義務化が始まりました。相続によって不動産を取得した相続人は、その不動産を相続したことを知った日から3年以内に、相続による所有権移転登記を申請しなければならないこととされました。
相続登記の手続き方法
相続による所有権移転登記は相続人ご自身で書類をそろえて法務局に行き、手続きすることもできますが、用意する書類や申請書の作り方など複雑な面がありますので、登記の専門家である司法書士に依頼することをおすすめします。
その際にまずは、法定相続人(法律上相続する権利を有する人)全員で、当該不動産を誰が相続するのかを話し合って決めます。この話し合いを遺産分割協議といいます。(法定相続人については「相続人とは誰のことを指すのか? 相続人の順位やどこまでが範囲かがわかる基礎知識」もご覧ください。)
遺産分割協議の結果、誰が相続するかが決まったらその方の名義に登記簿の記載を変更する登記申請をします。誰か一人ではなく、複数の方が共有で相続することも可能です。
遺産分割協議がまとまらない場合、3年以内に登記申請するという上記の義務を守ることができなくなるのでしょうか。そのような場合に義務を守るために以下の2つの方法があります。
1つ目は、「法定相続人全員が法定相続分の割合にしたがって相続した」という形で登記をするという方法です。この場合、後で遺産分割協議がまとまって相続する方が決まったら、改めてその方の名義に登記を変更することができます。
2つ目は、相続人のうちの一人が法務局の登記官に対して、相続が開始した旨及び自らが相続人である旨を申し出ることで、義務を果たしたとみなされる制度を利用する方法です。この制度では、法務局において「相続人申告登記」という予備的な登記がされます。この場合でも、その後の遺産分割協議の結果、相続する方が決まったら改めてその方の名義に登記することができます。
不動産を相続したくない場合
亡くなった方が所有していた不動産を相続したくない場合には、どうすればよいでしょうか。以下にいくつかの方法を紹介します。
相続放棄
相続人は亡くなった方の財産を相続したくない場合、家庭裁判所で相続放棄の手続きをとることができます。(記事タイトル「相続放棄をすれば絶対に借金を請求されないの? 放棄ができなくなる場合があるって本当?」)
ただし、この場合には不動産だけでなく、亡くなった方のすべての財産を相続することができなくなりますので、注意が必要です。
相続土地国庫帰属制度
「相続土地国庫帰属制度」は、相続によって宅地や田畑、森林などの土地の所有権を相続した人が、一定の要件を満たした場合に、土地を手放して国に引き渡す(国庫に帰属させる)ことができる制度です。ただし、以下のようにいくつか条件があります。
(1)申請の段階で却下となる土地
・建物がある土地
・担保権や使用収益権が設定されている土地
・他人の利用が予定されている土地
・特定の有害物質によって土壌汚染されている土地
・境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(2)該当すると判断された場合に不承認となる土地
・一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
・土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
・土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
・隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
・その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
また、国庫への帰属が認められた場合には、申請した相続人は国に対して10年分の土地管理費相当額の負担金を納付しなければなりません。負担金の額は土地の性質(宅地なのか田畑や森林なのか)や面積などによって決められます。
相続したうえで売却したり賃貸する
相続した不動産を売却したり賃貸したい場合には、「空き家バンク」を利用できるか検討してみることもおすすめです。
「空き家バンク」とは、空き家を売却・賃貸したい人からの情報を集約して、移住希望者を中心とした空き家を購入・賃借したい人に向けて提供するサービスで、自治体や自治体の依頼を受けたNPO法人がその地域の活性化のために運営しています。
まとめ
相続手続きや不動産登記の専門家である司法書士は、相続による所有権移転登記手続や相続土地国庫帰属制度の利用に関する相談を受けることが可能です。
亡くなった方が不動産を所有していた場合や所有していたかもしれないけれど詳細がわからないといった場合にはぜひ、ご相談ください。