デジタル遺産とは? どのように見つけてどのように手続きするの?

デジタル遺産とは?  どのように見つけてどのように手続きするの?

相続の手続きと聞いて、みなさんはどのようなことを想像するでしょうか? 年金や健康保険などの役所での手続き、不動産(土地や建物)の名義変更、銀行などでの預貯金の名義変更や解約手続き、電気やガスの契約の名義変更や解約手続きなどなど…
最近これらに加えて、故人が使っていたパソコンやスマートフォンの処分、SNSアカウントの停止、ネット銀行やネット証券、暗号資産(仮想通貨)の手続きなどの「デジタル遺産」に関する相談も増えています。
この記事では、「デジタル遺産」にはどのようなものがあるか、どのような手続きをしたらよいかなどについて解説します。

デジタル遺産とは

実は、「デジタル遺産」についての法律などの明確な定義がありません。
一般に、スマートフォンやパソコンといった情報端末、その中に保存されている写真や文書ファイルなどのデジタルデータ、インターネット上にある故人のSNSやマイページのアカウント(契約)と、書き込んだりアップロードしたりした文章や写真など、また、ネット銀行やネット証券の口座や暗号資産(仮想通貨)などの金融資産が含まれます。

デジタル遺産の分類

デジタル遺産は大きく分けて以下の4つに分類できます。

デジタル遺産の種類
①デジタルデータをつくって保管するための機器類(情報端末)スマートフォン・パソコン・タブレット
②上記の情報端末に保管されているデジタルデータそのもの(インターネットを介していないオフライン状態で保管されているもの)①の情報端末に保管されている写真や画像・文書などのデータ
③インターネットサービスのアカウント(契約)とそれを通じてオンライン状態で保管されているデジタルデータSNSアカウントとSNS上の書き込みや投稿データ・動画や音楽配信のサブスクリプション契約・オンラインストレージのアカウントとその中に保管されているデータ
④ネット銀行口座・ネット証券口座・暗号資産(仮想通貨)などの金融資産やポイントサービスのポイント・電子マネー

デジタル遺産の相続手続き特有の問題

デジタル遺産については、近年の情報化社会の進展により急速に発展してきた技術やサービスであるため、現状、利用者が亡くなるということを想定した法整備やサービス提供者の手続き規定などが十分に整っているとはいえません。
そのため、利用者が亡くなった際の手続きについては、相続人が一つ一つサービス事業者に問い合わせるなど、手探りで手続きを進めていく必要があります。
また、これらサービスの利用の多くはIDやパスワードによって管理され、利用開始時に厳格な本人確認を求められるものは少ないので、利用者が亡くなった本人であるということを証明するための方法も確立されているとはいえない状況です。そのため、相続人からの問い合わせにどこまで応じてもらえるかなど、事業者側の対応によって手続きの難易度に差が生じてくることがあります。
さらに、上記のとおりIDとパスワードで管理されているものが多いので、そもそもの話として相続人が亡くなった方のデジタル遺産をどこまで探し出せるかという問題も生じてきます。

デジタル遺産の見つけ方

それでは、相続人はどのようにして、亡くなった方のデジタル遺産を見つければよいでしょうか。「デジタル遺産の分類」ごとに整理してみましょう。

① デジタルデータをつくって保管するための機器類(情報端末)
これは、亡くなった方の自宅や所持品などから、比較的容易に見つかる可能性が高いでしょう。
問題は端末から中のデータにアクセスできるかどうかです。端末は多くの場合、パスワードロックが設定されています。しかも、端末の中に下記②~④を見つけるヒントになるものが多数含まれています。
パスワードがわからない場合、相続人が再設定できるようでしたら再設定しましょう。再設定できない場合、以下のような方法を試してみることになりますが、うまくいくかは何ともいえません。(特にスマートフォンの端末ロックは通信事業者側でも把握しておらず、セキュリティーも強固なため、専門業者でもロック解除できない場合も多いようです。)

・スマホやパソコンの購入時やインタネットプロバイダ契約の際の契約書類・説明書などと一緒に、パスワードのメモがないか探してみる
・リカバリーソフトなどを使う
・ハードディスクやSSDを取出して別の端末で復元する
・専門のサービス業者に依頼する

② ①の情報端末に保管されているデジタルデータそのもの
これらのデータは、①の情報端末にアクセスできれば、その中を探すことができるので判明するでしょう。

③ インターネットサービスのアカウント(契約)
亡くなった方がどのようなサービスを利用していたかは、上記①の端末内のアプリやインターネットブラウザの履歴・お気に入り登録・受信メールなどから探っていくことになります。
また、SNSのアカウントは亡くなった方と親しくしていた方が知っている可能性が高いので、そのような方に聞いてみるのも良いでしょう。

④ ネット銀行口座・ネット証券口座・暗号資産(仮想通貨)などの金融資産やポイントサービスのポイント・電子マネー
上記③と同様に、情報端末内のアプリやインターネットブラウザの履歴・お気に入り登録・受信メールなどから取引している金融機関がわかる可能性が高いです。また、ネット銀行・ネット証券でも、口座開設時の手続き書類や取引案内などが書面で送られてくる場合もありますので、郵便物などを探してみても良いでしょう。

ただし、暗号資産(仮想通貨)については、紙の契約書類や取引履歴があることはほとんどありません。
また、ポイントサービスのポイントや電子マネーは、上記のスマホなどの端末にあるアプリのほかに、紙や磁気プラスチックのカードがないか、亡くなった方のお財布など所持品を確かめてみましょう。

デジタル遺産の分類別相続手続き方法

亡くなった方のデジタル遺産を把握できたら、具体的にどのような手続きを行うことになるのでしょうか。こちらも「デジタル遺産の分類」ごとに解説します。

① デジタルデータをつくって保管するための機器類(情報端末)
パソコンやスマートフォンなどの情報端末自体は動産として相続の対象になります。相続人がお一人の場合や遺言により特定の相続人がこれを相続するとされている場合は、その方が相続することになります。相続人が複数いる場合で遺言書が存在しない場合には、遺産分割協議で誰が相続するかを決めます。
もしも処分(売却や廃棄等)をしたい場合には、相続人全員の合意で行うか、遺産分割協議で誰が相続するかを決めてからその方が処分することになります。処分をする場合には、プライバシーや情報保護の観点からデータを復元できない形で消去することをおすすめします。その場合、下記②の対応をとってから処分しましょう。

② ①の情報端末に保管されているデジタルデータそのもの
デジタル機器内のデータは上記①の情報端末の所有権に付随して承継されるという見解もありますが、「物」ではないとして所有権の対象にならないという見解もあります。また、写真画像、原稿、楽曲等の著作権の対象になるデータの著作権は、①の情報端末の承継とは別の問題として捉える必要があります。
いずれにしても、相続人の間で、①の情報端末自体の話とは分けて、誰がどのように引き継ぐかを決めておくことが後のトラブル等を防ぐことになります。(もちろん、①の情報端末を相続する人が中のデータもすべて引き継ぐとして合意することも可能です。)

③ インターネットサービスのアカウント(契約)
アカウントについては、サービス提供者の規定によって相続人が引き継げる場合と引き継げない場合があります。ただし、一般的には「一身専属権」といって個人に専属し、相続人を含む第三者に移転しない権利としている事業者が多く、引き継げない場合が多いようです。その場合には、事業者に連絡してアカウントを閉鎖してもらうことになりますが、手続きの方法は各事業者に確認する必要があります。
ちなみに、FacebookとInstagramは「追悼アカウント」という故人のページを保護する機能を備えており、第三者に乗っ取られたり、荒らし的な書き込みをされたりするのを防ぐ仕組みがあるようです。

④ ネット銀行口座・ネット証券口座・暗号資産(仮想通貨)などの金融資産やポイントサービスのポイント・電子マネー
ネット銀行口座やネット証券口座の手続き方法は、通常の銀行や証券会社での手続きと変わりはありません。亡くなった方や相続人の戸籍・相続人の印鑑証明書・遺産分割協議書などを提出して、口座の名義変更や解約の手続きをとります。
暗号資産については、ネット銀行やネット証券会社と違って、相続手続きに関する整備が十分にされているとはいえない状況のようです。亡くなった方が利用していた仮想通貨取引所に問い合わせて手続きすることになるかと思われます。
ポイントサービスのポイントや電子マネーについても、会員死亡時の規定が定まっていない場合が多いようです。サービス事業元に問い合わせる必要がありますが、特にポイントは一定期間使用がないと失効する規定になっていることも多いので、必要がなければ特に手続きをしなくても大きな問題はないかもしれません。(航空会社のマイルは引き継ぐことができるようですが、期限がある場合もあるようです。早めの手続きをおすすめします。)

まとめ

以上のとおり、デジタル遺産の相続については各サービス事業者もいまだ整備途上の段階にあり、手続きが確立されているとはいえない状況です。
しかし、デジタル化・情報化社会の進展に伴って、弁護士・税理士・司法書士といった相続手続きの専門家の中にもデジタル遺産の相続に詳しい人が増えてきています。
遺産分割協議書の作成、不動産・預貯金の相続手続きなどを専門家に依頼する場合には、あわせてデジタル遺産についても相談をしてみるとよいでしょう。
また、ネット銀行やネット証券の口座は、故人の情報端末にアクセスできないと、相続人には存在すら把握できない状況になりかねません。生前に対策をなさる場合もデジタル遺産のことも忘れずに検討しましょう。

この記事を書いた人

藤浪智央
司法書士

藤浪智央

2000年大学在学中に司法書士試験に合格。地元信用金庫勤務を経て2009年7月司法書士登録。
座右の銘は「努力に勝る天才なし」。少子高齢化、個人の権利意識の高まりなど、社会環境の変化により大きく変わっている相続関連の法律や制度に常に対応し、お客様に満足いただけるように心がけています。

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