「未来」に備える5つの視点 ~バランスが良い生前対策のために~

「未来」に備える5つの視点 ~バランスが良い生前対策のために~

最近はいろいろなメディアで、相続に関する話題が大きく取り上げられるようになりました。
自分の死後のために準備をしたほうがよいのではないかと感じている方も多いと思いますが、それではどのようなことに気をつけて対策を進めていったらよいのでしょうか。
この記事では、私たちが考える生前対策に必要な5つの観点について解説します。

生前対策とは

一般的に生前対策とは、ご自分の相続に備えた対策のことを指しますが、明確な定義があるわけではありません。
通常は
「遺産分割(争族)対策」
「相続税(節税)対策」
「納税資金対策」
の3つを指すことが多いですが、私たちは、ここに
「現状把握と対策の方向性の整理」
「認知症対策」
を加えた5つの観点から生前対策を行うことをおすすめしています。

1つずつ見ていきましょう。

現状把握と対策の方向性の整理

ご自身のライフプランや健康状態、保有している資産や家族構成、そしてご自分の想いやご家族の希望。
これらを把握しないまま進める生前対策は的外れになる可能性が高く、労力や費用を浪費したり、相続人間の紛争などを招く要因となったりすることがあります。

豊かな老後の生活や円満な相続のため、ご自分の想いだけで対策を進めるのではなく、ご家族の意見を取り入れながら、必要な対策を必要な範囲で行うために、まずは保有している資産の確認や、今後の収入・支出など、現状の把握から始めましょう。

現状の把握ができたら、どのような対策を行っていくのか、方向性を決めましょう。
老後の生活を充実させるのか、より多くの財産を家族に遺したいのか、社会貢献のために寄付をしたいのか、なるべく税金を払いたくないのか。
生活のために使う財産、いざという時のために蓄えておく財産、家族に承継させたい財産など、仕分けをするとわかりやすいと思います。
方向性の決定は、ご自分だけで考えるのはなく、ご家族にとっての優先順位を確認しながら進めるとよいでしょう。

認知症対策

認知症対策は、認知症により判断能力が低下した際の、財産管理や日常生活の支援についての対策です。平均寿命が延びたことによって老後生活が長期化し、支援の必要性が増しています。また、相続対策が行えなくなることへの備えもここに含みます。

支援が必要なときの備えとして、資産内容や介護、医療、葬儀、納骨、相続の希望などを事前にご家族に伝えておくことは、とても有効な手段です。必要に応じてエンディングノートを活用するとさらに良いでしょう。

身寄りのない方など、ご家族の支援を得ることが難しい場合は、専門家との間で任意後見契約や財産管理契約、民事信託契約などを結んでおくとよいでしょう。認知症発症前後の生活の支援を得ることができます。

認知症になってしまうと相続対策を行うことも難しくなります。遺言の作成も、生前贈与も、資産の組み替えも、保険の加入も、基本的には認知症になってしまうと行うことができません。できる限りの対策を判断能力が十分な元気なうちにとっておくことが大切です。

遺産分割(争族)対策

遺産分割(争族)対策は、相続財産を円満に相続人に承継するための対策をいいます。
遺言の作成や生前贈与、民事信託の活用のほか、分割しやすい資産への組み替えや生命保険の活用など、様々な方法を比較検討し、単独で、あるいは組み合わせて、「円満な相続」を目指します。

また、遺産分割対策には煩雑な相続手続きの手間を省く効果も期待できるため、円滑な相続手続きを実現することにもつながります。

相続税(節税)対策

相続税(節税)対策は、相続発生時に負担する相続税額を減らすための対策です。相続税は、相続や遺贈によって取得した財産等の額が基礎控除額(3000万円+法定相続人の人数×600万円)を超える場合に、その超える部分に対して課税される税金です。

そのため、まずはご自分が亡くなった際に相続税が課税されるのかどうかを確認することが必要です。課税されることが分かれば、納税額を減らす対策をすることになります。

代表的な手法としては、不動産の購入や建物の建築、賃貸等による相続税評価額の引下げがあります。また、生命保険の非課税枠を活用する、資産を生前贈与するといった手法でも同じ効果が期待できます。

なお、実際に相続税を納めなければならないケースは相続全体の9%程度といわれています。
まずは相続税納付の要否・概算額を確認し、必要な範囲で対策を進めるのがよいでしょう。

納税資金対策

納税資金対策は、相続税の支払いのための資金の準備をする対策です。資産の多くが不動産や自社株である場合など、多額の資産をお持ちでありながら、預貯金や現金などが少なく、相続税の納税に苦労されるケースがあります。不動産や自社株などは、相続発生後に売却しようとしても、相続税納付期限(相続発生後10か月以内)にご希望の条件で売却できるとは限らないためです。

対策としては、まず相続税の概算額を把握して、納税資金に相当する現金や換金しやすい金融資産があるかを確認します。
不足が予想される場合には、遊休不動産の現金化、生命保険の活用などを計画的に行い、納税資金を確保していくことになります。アパート等の収益物件を相続人に生前贈与し、相続人の側で収益を納税資金として蓄えておく方法も考えられます。
またオーナー経営者であれば、会社の死亡退職金規程等を活用することもできるでしょう。

まとめ

生前対策で大切なのは対策のバランスです。
たとえば節税対策のみを重視した場合、円満な相続に向けた対策が難しくなるなど、それぞれの対策はお互いに影響を与えます。
まずは現状把握をしっかりと行い、ご本人やご家族の生活、財産の承継、納税に関する対策をバランスよく行っていただければと思います。
おひとりで考えることが不安だったり、ご不明な点等は、ぜひ専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

島 武志
司法書士

島 武志

静岡で生まれ育ち、高校まで過した後、京都で学び、就職で静岡に戻り、紆余曲折を経て、現在は静岡で司法書士として日々を過ごす。
相続、生前対策(遺言、民事信託など)、商業登記、企業法務、不動産登記など様々な分野に携わる。特に相続案件の対応件数は、これまで1000件以上。
仕事を行ううえで意識していることは「守破離」と「三方よし」。

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