亡くなったご家族が土地や建物を所有している場合、不動産の所有者の名義を変更することになります。
その手続きのことを「相続登記」と呼びます。
日々、相続登記の手続きをご依頼いただいておりますと、いろいろな事案に遭遇します。
そこで、相続登記にまつわるちょっぴり(かなり?)マニアックな話をシリーズでご紹介します。
今回は、亡くなった方のご住所が、登記簿に記載されている住所と違うケースについて紹介します。
目次
不動産謄本の所有者の住所を見てみよう
亡くなった方が土地、建物などの不動産を所有していた場合は、法務局で不動産の登記簿謄本(現在の呼び名は「登記事項証明書」)を取得して、所有者として登記されているかどうか確認してみましょう。

見本のように「甲区」の欄に、所有権を得ることになった原因やその日付、所有者の住所や氏名が記載されています。この欄に記載されている住所や氏名が、亡くなった時と同じ住所・氏名でしたら何の問題もありません。
ですが、住所や名前が異なっていることが少なからずあります。
特に住所に関しては、亡くなった時の住所と完全に一致しているケースのほうが少ないかもしれません。
なぜ違いが生じるのでしょうか。
謄本の所有者の住所が現在の住所と異なっている理由
①登記した後に住所や名前が変わったら、登記申請しないと登記簿の記載が変わらないから
登記簿の記載は、あくまでもその登記を申請した時点の住所と名前です。
所有権を得たあとに住所や氏名が変わったら、変わったことを法務局に申請しないと、登記簿にその変更は反映されません。
住所や名前を変更する登記のことを「所有権登記名義人住所・氏名変更登記」と呼びます。
この登記は現時点では義務とされていないこともあり、申請されないことも多かったのが実情です。
したがって、所有権を得た時期が古ければ古いほど、引っ越しや結婚などで住所や氏名が変わっている可能性が高くなります。
②引っ越ししなくても住所の記載が変わることがあるから
さて、住所が変わると言えば、引っ越しがまず思い浮かびます。
しかし、引っ越しをせずにずっと同じ場所に住み続けていても、行政が行う変更によって住所の記載が変わることがあります。
行政が行う変更の代表的な例が「市町村の合併や区制の施行」です。
平成の大合併により、静岡県内でも多くの市や町が合併しました。
たとえば、静岡市は平成15年4月1日に清水市と合併し、平成17年4月1日から静岡市葵区、駿河区、清水区という区制がスタートしました。
そのほか、
・平成17年4月1日 田方郡大仁町、韮山町、伊豆長岡町が合併して伊豆の国市誕生
・平成17年5月5日 榛原郡金谷町が島田市と合併
・平成20年11月1日 志太郡大井川町が焼津市に合併
などなど、実に多くの行政区画の変更が行われました。
そのほかにも「住居表示実施」や「土地区画整理」が行われることもあります。
「住居表示実施」とは、「●番地の●」という土地の地番(番号)を使った住所から、「●番●号」と建物の場所を表す番号へと変更されることです。また、「●丁目」が付されることもあります。
静岡市ですと、最近、向敷地で住居表示が実施され、「向敷地●番地の●」という住所が、「向敷地●丁目●番●号」という住所に変わっています。
以上の理由で、引っ越しの有無にかかわらず、見た目の住所の記載が変わることがあります。
亡くなった方が所有している不動産であることに変わりはないのだから、何が問題なの?と思われるかもしれません。
これがなかなかどうして問題なのです。
住所の変更登記はとても重要
一般的に、不動産を売るときや不動産を担保に抵当権の設定を行うとき、登記簿上の住所と所有者の住民票上の住所が異なっていると、「所有権登記名義人住所変更」という、登記簿上の住所を所有者の現在の住所に合わせる登記を行います。
これは、登記簿上に記載されている「登記名義人」と、今回の登記で登記名義人だと名乗っている人物が同じ人物であることを証明するためです。
法務局へ登記を申請する際には、当事者が法務局に出頭するわけではなく、すべて書面で行われます。書面上で、登記記録上の人物と、現在登記申請の当事者となっている人が間違いなく同一人物であることを明らかにしなければならないのです。
所有権登記名義人の住所や氏名の変更登記が漏れていたり間違っていたりしますと、登記簿上の所有者と登記申請人が同一人物かどうかの確認ができない事態になりますので、住所を変更する登記は非常に重要な登記なのです。
相続登記の場合は住所変更登記は不要、でも・・・
一方、相続登記の場合、登記簿上の住所と亡くなった時点の住民票上の住所が異なっていましても、住所変更登記を行う必要はありません。
申請人となるべき所有者が亡くなっていて、住所変更登記を行うことができないからです。
これは、「住所変更の登記を省ける」ということであって、登記名義人と亡くなった方が同一人物であることは証明しなくてはなりません。
したがって、登記簿の住所と亡くなった時の住所が違っていたら、その2つの住所をつなげるべく、必要な資料をすべて取得し、登記申請書に添付して法務局に提出して、同一の人物であることがわかるようにします。
以上、
・登記簿上の住所と亡くなった時の住所が異なっていることがあること
・異なっている場合は同じ人間であることを証明するために住所をつなげる証明書を準備する必要があること
を簡単に説明しました。
それでは、住所をつなげるにはどのようにしたらよいでしょうか。
次回に続きます。