家族や親族が亡くなったとき、その方の財産等を承継する権利を持つ人のことを「相続人」と呼びます。
誰が相続人になるのかは、実際に相続が発生したときはもちろんこと、ご自身の終活(生前対策)を行ううえでも重要なポイントです。相続人が誰であるかによって、取りうる選択肢が変わることもあるからです。
この記事では、誰が相続人になるのか、どこまでが相続人か、そして相続人の順位と範囲に関する「相続人の基礎」を解説します。
目次
相続人の基本1 「法定相続人」は2種類存在する
民法では、ある方が亡くなった際、相続することができる人の範囲と順位を定めています。
民法の規定にしたがって相続する権利を持っている人のことを「法定相続人」と呼びます。
この法定相続人は、「配偶者」と「血族相続人」の2つに分けられます。
2種類の法定相続人がいることが重要ですので覚えておきましょう。
相続人の基本2 「配偶者」は常に相続人
相続人となる「配偶者」は、亡くなった方の配偶者を指します。夫が亡くなれば妻、妻が亡くなれば夫が相続人になります。
配偶者は、存命である限り常に相続人です。仮に、妻が亡くなるより前に夫が亡くなっていた場合、妻が亡くなったときに夫は妻の相続人にはなりえません。
なお、ここでいう「配偶者」とは、民法第739条第1項の規定によって婚姻の届出をした人のことです。
ですので、婚姻の届出をしていない内縁配偶者や、離婚した元夫、元妻は相続人ではありません。(内縁配偶者の相続に関してもっと知りたい方はこちら(「相続の対象者とは? 法定相続人についての解説と入籍していないパートナーに遺産を遺すための方法」)の記事を参照ください。)
相続人の基本3 「血族相続人」には、相続する順番が決められている
「血族相続人」とは、亡くなった方の「子ども」、「お父さん・お母さん」、「おじいさん・おばあさん」、「兄弟・姉妹」を指します。
このように書くと、血族相続人に当てはまる人はみんな相続人になるのかと思ってしまうかもしれませんが、もちろんそんなことはありません。
血族相続人には、第1順位、第2順位、第3順位と、相続する順番(順位)が決められていて、最も早い順位にある人が血族相続人となり、配偶者とともに、相続人になります。つまり、
- 第1順位の人がいれば第1順位が相続人
- 第1順位の人がいなければ第2順位の人が相続人
- 第1順位も第2順位もいなければ第3順位が相続人
というように、その順位の相続人がいるかいないかによって、相続の権利が次々に動いていくのです。
①血族相続人の第1順位
血族相続人の第1順位は、「子ども」です。
ここでいう子どもは実の子だけでなく養子、そして非嫡出子(親が法律上の婚姻関係にない子ども)も含まれます。
亡くなったときに婚姻関係にある配偶者との子どもだけでなく、離婚した元配偶者との間にも子どもがいれば、その子どもも相続人です。
また、嫡出でない子どもと父との親子関係は、父親が認知することによって生じるので、父親に認知されない限り父親の相続人にはなれません。余談ですが、以前は非嫡出子の相続分は嫡出子の半分でしたが、民法が改正され、現在は嫡出子と非嫡出子に関係なく平等に相続できるようになりました。
なお、第1順位の子どもがすでに亡くなっていて、その人に子どもがいる、つまり被相続人から見て孫がいる場合は、その孫が相続人になります。これは「代襲相続」と呼ばれ、相続人となる孫は「代襲者」と呼ばれます。仮に、孫も亡くなっていて、被相続人から見て曾孫がいらっしゃれば、曾孫が相続人になります。
②血族相続人の第2順位
血族相続人の第2順位は、「お父さん・お母さん」です。
被相続人に第1順位の血族相続人である子どもや代襲者がいない場合、亡くなった方の「父・母」に相続の権利が移ります。
つまり、被相続人と血がつながった下の世代(直系卑属)に相続人がいなければ、被相続人と血がつながった上の世代(直系尊属)に相続の権利が移ります。とは言え、どこまでもさかのぼるのではなく、被相続人により近い距離の人が存命であればその人が相続人になります。
したがって、被相続人の「父母」「祖父母」いずれも健在であれば、「父母」のみが相続人です。また、「父」と「祖父母」が健在でしたら「父のみ」が相続人、「祖母のみ」健在であれば「祖母」が相続人です。「父母」も「祖父母」も他界していて「曾祖父」が健在であれば「曾祖父」が相続人になりえますが、実際そのようなケースは発生しにくいと思われます。
③血族相続人の第3順位
血族相続人の第3順位は「兄弟・姉妹」です。
被相続人に血族相続人の第1順位となる子どもがおらず、なおかつ第2順位となる両親(祖父母)もいないとなれば、兄弟や姉妹が第3順位の相続人になります。
被相続人から見て血のつながった上下(親子)の関係にあたる人がいなければ、次は被相続人と横のつながりがある人が相続人になる、というイメージでしょうか。
なお、兄弟・姉妹が被相続人より先に亡くなっていれば、その子ども、つまり被相続人から見て甥や姪が代襲者となって相続人になります。
先に第1順位の項目で、相続人から見て子どもと孫がいなければ曾孫が相続人になると述べました。ですが、第3順位の場合は代襲は甥・姪まで。甥・姪が亡くなっているときに、さらに甥・姪の子どもにまで相続の権利が移動することはありません。
相続人の基本4 お子さんのいないご夫婦の場合は相続が複雑化する
さて、子どものいないご夫婦のどちらかが亡くなった場合、誰が相続人になるでしょうか?
ここまで記事をお読みくださった方はおわかりかと思いますが、少々複雑です。
配偶者である自分以外にも、被相続人の両親が健在なら、両親は第2順位で相続人になりますし、両親が鬼籍に入っていても第3順位である兄弟姉妹が健在であればその方々が相続人です。兄弟・姉妹が被相続人より先に亡くなっていれば、被相続人の甥や姪が相続人になるのです。
子どもがいないのでご自身だけが相続人だと思っておられ、銀行で預金の解約をしようとしたときに、窓口で被相続人の「兄弟・姉妹」の実印も必要だと言われて困ったというお客様が過去にいらっしゃいました。血族相続人の第2順位と第3順位の見落としが原因と思われます。
ご両親、兄弟・姉妹との関係が良好であれば、遺産の分け方を決めていくことも大変ではないかもしれません。ですが、「血族」であっても、様々なご事情で疎遠なことはあるでしょう。相続人確定のために戸籍を取得していって初めて、すでに兄弟・姉妹が亡くなったことを知るような事態もあるかもしれません。これはさすがに極端な例かもしれませんが、甥御さん姪御さんの連絡先まで把握している方はあまり多くないのではないでしょうか。
兄弟・姉妹が多ければ必要書類に印鑑を押してもらうにも手間がかかります。
また、亡くなる年齢にもよりますが、兄弟・姉妹も高齢であれば、認知症になってしまって手続きがスムーズに進まないリスクもより増えます。
以上のような事情から、私たちとしては、お子さんのいらっしゃらないご夫婦やお一人様の方には遺言を作っておくことをお勧めしております。
相続人は家族の状況によって変化するもの
最後、少々話がずれましたが、誰が相続人になるのかの基本的な考え方について、常に相続人となる配偶者、順位が決まっている血族に分けて説明しました。
ご家族の状況や、相続手続きを始めるタイミングによって、誰が相続人となるのかが時とともに変化することをご理解いただけたかと思います。
もし相続が発生した場合は、速やかに様々なお手続きを進めていくと良いでしょう。
相続手続きを未了のままにしておくと、相続人の中で亡くなる方が出てきて、その結果相続人の範囲が広がっていってしまうからです。
たとえば、Aさんの相続が発生した後、Aさんの相続財産の分け方が決まらないうちにAさんの相続人であるBさんが亡くなった場合(これを「数次相続」と呼びます)、Bさんのお子さんだけでなくBさんの配偶者も、Aさんの相続人になるのです。
今回は相続人の特定に関する基本的な事項のみを説明しました。
普通養子縁組を行った場合の「親」の考え方、相続する権利を剥奪される相続欠格などがあった場合など、特別なケースについてはまた別の記事で説明したいと思います。
相続人の特定、戸籍の収集や相続人への連絡など、各種手続きに不安や疑問がある方は、ぜひお気軽に私どもにご相談ください。